【慰謝料】相場はあっても明確な基準はない

離婚したら〇〇万円? 1回だけなら〇〇万円?
いいえ。実は、不貞慰謝料には明確な算定方法がありません。
不貞と慰謝料の基礎知識を解説します。

目次

そもそも慰謝料って何?

「慰謝料」とは、精神的苦痛を慰謝するためのお金です。したがって、当然、精神的苦痛の大きさによって、金額も変わるわけですが、人によって大幅に上下するのでは不公平ですよね。そこで、精神的苦痛の大小に影響する客観的要素によって、金額を決めていくことになります。一般的には、不貞の期間、不貞の回数、婚姻期間、もともと夫婦仲が良かったか、離婚の有無、子どもの有無、経済的影響、不貞発覚後の謝罪の有無等が考慮要素になると言われています。

法律上、慰謝料の計算方法は定められておらず、裁判官の裁量で決められます。したがって、「この要素があれば必ず〇〇円になる」とか、「こういった事情があれば〇〇円以上は確実」といったことは言えません。そのため、訴訟では裁判所が決めてくれますが、訴訟をしないのであれば、話合いで決めるしかなく、金額で揉めやすいのですね。

裁判例のだいたいの相場

裁判例の相場では、数十万円~500万円以上まで、かなり幅がありますが、300万円を超える慰謝料が認められるのは例外的と言って良いでしょう。ただし、最近も、300万円以上の判決は、それなりの数が出ているので、ある程度悪質な事案であれば、十分可能性のある範囲内です。現場の実務感覚としては100万円~200万円の範囲が非常に多いと感じます。

高すぎる慰謝料でも合意したら有効

慰謝料は、訴訟をしない限り、話合いで決めるしかないので、相場より高すぎる慰謝料でも合意したら有効です。合意した後になって、高すぎるから減額して欲しいとは、基本的には言えません。ただし、あまりにも非常識な金額の合意は公序良俗違反(暴利行為・民法90条)として、無効になる可能性があります。また、錯誤(民法95条)、詐欺・強迫(民法96条)といった事情があれば、合意を取り消すことができます。

実は、実際のところ、合意が有効でも、弁護士を付けて減額交渉すれば、減額に成功する場合も結構あります。もちろん、いったん合意した以上、相手が応じなければそれまでですが、いったん合意した金額について、再交渉することも、法律上は自由なので、交渉してみるのも一つの選択肢です。

離婚したら〇〇円以上、離婚しなければ〇〇円以下は本当か?

法律事務所の解説サイトなどを見ると、「離婚したら〇〇円以上、離婚しなければ〇〇円以下」というように、離婚の有無によって、慰謝料額が大きく変わるかのように記載しているものがあります。しかし、私の意見では、離婚の有無だけでは、一概に金額は決まらないと思います。
そもそも、最高裁は、既婚者と不貞をした第三者との関係では、不貞と離婚の間に法律的な因果関係を認めていません(最判平成31年2月19日民集73巻2号187頁)。不貞があったとしても、それによって離婚するかどうかは、あくまで夫婦間で決められることだからというのが理由です。この最高裁の理論によると、離婚したかどうかによって、慰謝料額が大きく変動するのは、矛盾と言わざるを得ません。精神的ショックの程度を図る物差しとして、離婚の有無を考慮することができるという見解もありますが、考慮したとしても、そこまで大幅に上下させるべきではないということになるはずです。
また、離婚しない場合でも、子どもや経済的理由で離婚できないだけであれば、そこまで大幅に慰謝料額を下げるべきかどうかは疑問があります。

離婚したかどうかというのは、交渉でも、訴訟でも、客観的で分かりやすい指標なので、主張されることが多いのですが、慰謝料額に決定的な影響を与えるとは限らないと思います。

裁判所の評価は統一されていない

交通事故の世界では、入通院日数、後遺障害等級によって、統一した慰謝料の算定基準が存在しています。算定基準といっても、あくまで目安なので、裁判所が従う義務はないのですが、裁判所も、事実上、その目安に従って慰謝料を決めています。
これに対して、不貞慰謝料の世界では、統一した慰謝料の算定基準というものは存在しません。弁護士が膨大な裁判例を収集して、日々研究したり、人によっては専門書籍に纏めて出版したりしていますが、はっきり言って裁判官によっても違うと言わざるを得ないと思います。

不貞という現象に対して、どのような評価をするかは、その人の価値観によって全然違うと感じます。たとえば、外国では、配偶者の不貞相手に対して慰謝料請求できない国も珍しくありません。その国では、不貞相手に責任を追及すること自体がおかしいという価値観なのでしょう。裁判官の場合も男女関係の倫理的な価値観はそれぞれ全然違うと思います。もちろん、違うといっても、最高裁の判例で、配偶者の不貞相手に対する慰謝料請求は認められているので、それを否定するような判決は書かないと思いますが、金額には大きく影響すると言わざるを得ません。たとえば、「不貞行為は1回しかない」という事実が減額事由になるかどうかも、裁判官によって異なると思います。1回でも離婚する人は離婚するので、回数はほとんど考慮されないという可能性も考えられるのです。

あらゆる減額事由を網羅しておくことが重要

〇〇という事実があれば〇〇円になるという単純なものではないということがお分かり頂けたかと思います。

弁護士は、「妥当な慰謝料額がいくらか?」を聞かれるのですが、なかなかピンポイントで金額を算定することはできません。そもそも裁判所が統一的な基準で判断していないので、どうしても予測できない部分はあります。

しかし、事件の数が多い分野なので、日々研究し、だいたいの相場、増額・減額に影響する事由というものは把握していますので、有利な交渉・訴訟を実現するためには、弁護士に依頼することをお勧めします。

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