慰謝料を請求した相手が自己破産する場合

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不貞は免責不許可事由ではない

不貞慰謝料を自己破産で免れることはできるのでしょうか。

浪費やギャンブルは免責不許可事由(破産法252条1項4号)ですが、不貞は免責不許可事由ではありません。他にパチンコ等の免責不許可事由があっても、ほとんど裁量免責(破産法252条2項)されているのが実務運用です。

したがって、多額の財産を隠していたとか、破産手続に全然協力しなかったとか、極めて悪質な場合でなければ、自己破産で免責を受けることができるでしょう。

ただし、自己破産は、「支払不能」でなければ認められませんから、他に借金などがなく、不貞慰謝料だけという状況では、認められないこともあります。

不貞慰謝料は非免責債権か

破産しても免責の対象とならない債権というものがあり、非免責債権と呼ばれています。そして、「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は非免責債権です(破産法253条2号)。では、不貞慰謝料は「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」に該当するでしょうか。

ここにいう「悪意」は、単なる故意ではなく、他人を害する積極的な意欲(害意)を意味し、ほとんどの不貞では、そこまでの害意がないと思います。

たとえば、東京地裁平成15年7月31日判決は、夫ではなく、夫の不貞相手の女性(破産免責済み)に慰謝料請求した事件ですが、「不法行為としての悪質性は大きいといえなくもない」としながらも、「原告に対し直接向けられた被告の加害行為はなく、したがって被告に原告に対する積極的な害意があったと認めることはできない」と判断しています。

夫婦の一方と共に不貞行為を行った者が、当該夫婦の他方が有する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するとの認識を有するだけでは、故意が認められるにとどまる。このような者に害意を認めるためには、当該婚姻関係に対し社会生活上の実質的基礎を失わせるべく不当に干渉する意図があったことを要するものというべきである。

(中略)被告及びAの不貞関係において、被告が一方的にAを篭絡して本件不貞行為に及んだなどの事情は認められない上、Aは、原告と別居した際、未成年の子を連れておらず、夫婦共有財産を持ち出したものでもなく、被告がAに対しこれらの行為を唆したともいえない。そうすると、本件不貞行為の際、被告において、本件婚姻関係に対し社会生活上の実質的基礎を失わせるべく不当に干渉する意図、すなわち原告に対する害意があったとまでは認められない。

東京地方裁判所令和2年11月26日判決

慰謝料請求した相手が「自己破産する」と言ったら?

本当に自己破産するなら諦めるしかありません。

しかし、「自己破産する」と言いながら、実際にはしない可能性もあります。

弁護士や司法書士から自己破産の通知が届くまでは、諦めずに交渉や訴訟を続ける価値があります。

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