夫が風俗店を利用した場合、風俗嬢に慰謝料請求できるか
風俗店の利用は、性的関係が商売に基づくという特徴があります。風俗嬢側からすれば、客が既婚者であろうと、断るという選択肢はなく、恋愛関係にもないので、慰謝料を支払わなければならないというのでは困るという事情があります。そこで、商売上の性的サービスの提供であっても、風俗嬢に慰謝料請求できるかということが問題になります。
結論から言えば、風俗店の利用であろうと、性的関係を持った以上、婚姻共同生活の平穏を害することになるので、慰謝料を請求することができます。裁判例も、おおむねそのような傾向にあると言えます。
恋愛感情と伴うかどうかにかかわらず、夫婦の一方の配偶者が第三者と肉体関係を持つことは婚姻生活の平和を害し、他方の配偶者に精神的苦痛を与えるものというべきである
横浜地方裁判所川崎支部令和元年7月12日判決
風俗嬢には慰謝料請求できないという裁判例もある
ただし、商売による性的サービスの提供については慰謝料請求できないと判断した裁判例もあります。
風俗店の従業員と利用客との間で性交渉が行われることが、直ちに利用客とその配偶者との婚姻共同生活の平和を害するものとは解し難く、仮に、婚姻共同生活の平和を害することがあるとしても、その程度は客観的にみて軽微であるということができる。
そうすると、仮に、被告とA(注:原告の夫)との間でなされた本件性的サービスの際の性交渉が、原告の婚姻共同生活の平和の維持を侵害し、不貞行為に当たり得る面があるとしても、それにより、原告に、金銭の支払によらなければ慰藉されないほどの精神的苦痛が生じたものと認めるに足りない。
東京地方裁判所令和3年1月18日判決
裁判官によって判断が分かれる一つの例ですが、例外的な判断だと思います。多くの裁判官は、風俗店における性的サービスの利用だからというだけの理由では、慰謝料請求を否定しない可能性が高いのではないでしょうか。
実際は故意・過失が障害になることが多い
ただ、実際の事件では、故意・過失が障害になる場合が多いと思われます。
風俗嬢は、利用客が既婚者かどうか知る機会がなく、調べる方法もありません。
風俗嬢と利用客とは、ほとんどの場合、その場限りの関係なので、店外で私的に逢っていたなどの事情がない限り、故意・過失が否定される可能性が高いと言えます。