既婚者だと知らなかった場合

独身だと聞いていたのに既婚者だった場合、慰謝料は支払わなければならないのでしょうか。

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不法行為は過失でも成立する

不貞慰謝料の根拠は、不法行為(民法709条)です。不法行為は、「故意」だけではなく、「過失」でも成立するので、既婚者であることを知らなかったことについて過失(不注意)がある場合には、慰謝料を支払わなければなりません。

常に調査義務があるわけではないが、疑いを生じさせる事情があれば、過失がある

裁判所は、異性と交際するときに、既婚者ではないかを常に調査しなければならないとは考えていません。恋愛は、元来、愛情と信頼に基づいて開始するもので、経済的な取引とは違いますから、事前に調査することを求めるのは現実的ではありません。恋愛の度に、いちいち調査しなければならないとなれば、この社会の恋愛の自由を極端に制限してしまうからです。

他方、既婚者の疑いが生じるような事情があったのに、確認をしなければ、過失があると判断されます。交際の途中で疑義が生じた場合でも、確認せずに交際を続ければ、過失があると判断されてしまいます。そのため、交際開始後に既婚者かもしれないという疑いが生じたのに、愛情があるから別れられなかったということで、過失が認められてしまうケースが後を絶ちません。

不貞行為に関して、当事者となる者が、相手方との関係で、同人が既婚者であることを確認する法律上の義務を一般的に負っているとは解することができず、あくまで具体的事情の下で、交際相手が既婚者であることについて疑義を生じさせるべき事情があるか否かという観点から過失の有無を判断すべきものと解される。(東京地裁平29・11・7)

過失が肯定する方向に働く事情と否定する方向に働く事情

不貞期間

不貞期間が長いと、既婚者と疑えるような不審点に気付く機会が多くなります。逆に、数か月で別れたような場合は、疑えなかったとしても、やむを得ないと評価されやすいでしょう。

不貞相手の年齢

年齢が高ければ、既婚者の可能性を疑いやすくなります。ただ、最近は結婚するのが当然の社会ではなくなっているので、これだけで過失があるとはいえないでしょう。

親戚付き合い

交際期間が長いのに、親戚に会わせないようにするのは、疑わしい事情の一つです。逆に、親兄弟に紹介してもらえたら、疑えなくても仕方ないと言いやすいでしょう。

結婚歴を知っていたこと

結婚歴があって「離婚した」と説明された場合には、「本当に離婚したのか?」と疑いやすくなります。

自宅訪問

相手の自宅を訪問したとき、子どものものがあったり、同居人の物があったりすると、既婚者だと疑いやすくなります。しかし、「配偶者と住む自宅に招くはずがない」という面もあるので、自宅に招かれたことは、過失を否定する事情にもなることがあります。また、こっちの自宅に泊ったことがある場合、過失を否定する事情になることがあります。

共通の知人がいること

同僚や友人など、不貞相手が既婚者だと知っている共通の知人がいる場合、その知人から既婚者だと確認することが可能だったといえます。しかし、共通の知人が、不貞相手と結託して隠していたような場合、「周囲の人間も独身として接していた」ことになりますから、過失を否定する事情になることもあります。

会える日時や旅行

短い時間しか会えないとか、土日祝日や正月・クリスマスのような特別な日に会えないとなると、「家庭があるのではないか?」と疑いやすくなります。また、宿泊と伴う旅行に行けないのも同じです。逆に、正月(普通は家庭で過ごす)に会っていたとか、宿泊を伴う旅行に行ったという場合には、過失を否定する事情になることがあります。

出会いのきっかけ

職場不倫では、職場の誰も既婚者だと知らないということはないでしょうから、周囲に確認する機会があったと言いやすくなるでしょう。逆に、出会い系や婚活アプリの場合、もともとの人間関係が希薄なので、気付きにくいと言え、過失が否定されやすくなります。ただし、出会い系や婚活アプリの規約で「既婚者利用禁止」と定められているだけでは、過失がないということにはなりません。既婚者が「遊び」で使うこともあるというのは常識だからです。

その他

その他、指輪や持ち物、言動など、既婚者だと疑えるような事情があれば、過失を肯定する方向へ働きます。逆に、既婚者なら普通取るはずがない言動があれば、過失を否定する方向へ働きます。

慰謝料の支払いを拒否する効果的な方法

不貞相手に騙されていたのですから、騙したことを証言してもらえれば、これほど有利な証拠はありません。しかし、不貞相手は、配偶者に不貞がバレると、家庭を崩壊させないために、配偶者の味方をしてしまう場合があります。そこで、できるだけ早い時期に、「独身だと騙していた」という内容の書面に、「日付・署名・押印」をもらっておくのが効果的です。

また、不貞相手とどのようなやり取りをしていたのかは重要な証拠になります。たとえば、交際中のLINEから、独身だと騙されていたことが見て取れる場合があります。昨今、LINEは重要な証拠になることが多いので、消さずに残しておくようにしましょう。

既婚者だと知らなかった場合は弁護士に相談を

騙されただけだから、支払いを拒否すれば良いだけじゃないですか?
なんの落ち度もないのに、弁護士費用を掛けたくない。

そう考えるのはよく分かります。しかし、交際自体は事実なので、交渉段階で効果的な反論をしなければ、訴訟になる可能性が高いといえます。既婚者だと知らなくても、過失責任で慰謝料を認めた裁判例も珍しくありませんし、不貞相手が真実を証言してくれるという保証もありません。
逆に、交渉段階で効果的な反論をすれば、相手の弁護士に過失の認定が困難であると思わせ、訴訟を回避できる場合もあります。「過失」は、あらゆる事情を総合的に評価するもので、事件によって様々な事情が考えられますから、「これさえあれば絶対に大丈夫」とか「絶対にダメ」というものではなく、弁護士でなければ判断が難しい領域になります。上手くいけば、一切の支払いを拒否することができる場合もありますので、早期に弁護士に相談することをお勧めします。

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